山内緋呂子

血のつながった人ではないか


花火大会の帰り
歩道を歩いていて

私は服を脱いでいなかったし
一番近い肌は あなたの頬でしたが
私は医者ではないので 血管のことはよくわかりません。

ただあなたの頬が あったかい、とか 赤い、とか

もう名前しか覚えていないようなあなたなのですが、

頬に血管が通っていたこと
今よくわかります

脱いでも脱いでも
私はあなたの頬しかわからず

あったかくて赤いのは
血管が通っているからだ、ということを
ただ知っているだけの大人です。


次の日
花火を夢で見た

隣の頬が
「あなたはどれが好き?」と問う
「バンッとひらいて、流れ落ちていくやつ。これ!」
「そうか。覚えておこう。」

花火は 粉々に流れ落ちて
あなたは覚えているだろうか


安直に できるだけ安直に

人の頬に似た桃を
皮を剥いて食べるので


あなたは
もう会えなくなったことを
後悔しなくてよいのです


未詩・独白Copyright 山内緋呂子 2004-01-14 01:35:36
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