夜のたより
木立 悟





ひそかに星の綿くずは
空のすみに集まってきて
夜の終わりもはじまりも
一緒のようにまたたいている


かじかんだ手と手を重ね
鳥を光にほどく息
どこまでも白く
どこまでも高くはばたいて
手と手から手と手から生まれつづける


闇にかがやく文字の消息
ぽつりかわいて明るいひとり
傘を握る手だけが映る
とおり雨にぬれた路地
小さくゆがみさざめく姿に
かわいて飛ぅべ
かわいて飛ぅべ


朝はいってしまったのに
けだものはまだそこにいて
とり残された命を呑んで
原のうたごえを聴いている
終わりなき贖いを聴いている


花のなかで
うっすらと染まる横顔に
なぜ紅をつけるのか
誰にもわかってもらえない
その目と口を飾るのか
なぜ 遅咲きの
枯れるしかない
誰も見ぬ見えない花を
見つめようとするのか


夜の空き地の一角に棲む
蜘蛛や蟻や
冬を越えられぬ生きものたちや
またたきながら遠去かる
光の瑪瑙をくちずさむもの
風を押してゆくものたちを
なぜ見つめようとするのか


曲がった腺とひとりの糸が
ひとつの指に寄り添うとき
人は遠い心臓を聴き
ひとつという名の数のさみしさ
ひとりという名の物差しの明かり
かわききれないまなざしたちと
夜を歩いてゆくのだろう
夜を歌ってゆくのだろう


いかずちのゆくえ
おわりとはじまり
ひとみのほうせき
のはらのあさつゆ
ひかりのとりたち
かわいて飛ぅべ
かわいて飛ぅべ










自由詩 夜のたより Copyright 木立 悟 2005-11-16 14:15:49
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