触発
FUBAR

道で見掛けた
名前も知らないあの人は
明らかに物憂い表情
すれ違いざま
それを少し和らげている
上品な残り香を眼で感じながら
少しばかり憶ってみる

あの人は
心に疼きを抱えているのだろうか
心を痛めているのだろうか
心に傷を負っているのだろうか

こうして今夜も
誰かが誰かを傷つけて
誰かが悲嘆に暮れている
誰かが心痛に苦しんでいる
彼らの詞の
一節のように


通りで見掛けた
名前も知らないあの人は
明らかに楽しそう
すれ違いざま
それを助長させている
暖かな空気を耳で感じながら
少しばかり憶ってみる

あの人は
心に幸慶を注いでいるのだろう
互いに愛を見出したのだろう
だからあの二人は笑っている

でも
世界は笑っている
そうとは言い切れない

どこかで今夜も
誰かが誰かを傷つけて
誰かが悲嘆に暮れている
誰かが心痛に苦しんでいる
彼らの詞の
一節のように


月を眺めながら
少しばかり憶ってみる
あの人は
滲んだ月と言葉を交し
あの人は
澄んだ月と言葉を交すのだろう

そして今夜も
誰かが誰かを傷つけて
誰かが悲嘆に暮れている
誰かが心痛に苦しんでいる
彼らの詞の
一節のように

世界は笑っている
世界は笑えている
そうとは言い切れない

だから今夜も
どこかで今夜も
誰かが誰かを傷つけて
誰かが悲嘆に暮れている
誰かが心痛に苦しんでいる
彼らの詞の
一節のように


自由詩 触発 Copyright FUBAR 2005-11-15 05:30:46
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