ポエム・ミーツ・ミー
あおば
小学2年生の時だと思うけど
ずいぶん前のことだから
1年くらいは違っていて
3年生の時かも知れない
初夏のある日
国語の時間に先生が
詩を書いて下さいと
おっしゃった
詩は教科書で読んでいて
普通の文とは違う
と
みんな知っていたのだが
どうしたら詩になるか
分からない
分からなければ
詩が書けない
書けなければ
いつまでも教室に残されて
明るい日差しの休み時間の校庭に
永久に出られない
そんな憂鬱な気持ちになるほど
考えても分からない
分からないけど
どうしてよいかも判らない
いつもやんちゃなA君も
優等生のK君も
黙ったまんまで時間が過ぎて
みんなの背中が堅くなり
塑像のようなクラスの中で
一人の少女が指名され
黙って立って
落ち着いた声でノートを読んだ
お母さんは、
買い物に行ったので
ひとりぼっちで残された
退屈な雨の日曜日
朝からビシャビシャ
雨が降っていて
お友達も来ないし
つまらない
情けなく憂鬱な日曜日
そんなふうな
湿っぽく退屈な
叙述が続いたように記憶する
なんだかみんな
雨の中で残された
侘びしいお留守番の
少女の気分になったとき
彼女は、
雨だれがぽつんと落ちて
輪になって消えた
と最後を一息で読み終えた
その途端
どこかでしんという音が
大きな音で聞こえたような気がしたが
本当に聞こえたのは
みんなが
一斉に鉛筆を書き殴る音だった
最後を
輪になって消えた、
と書けば詩になると
みんな一斉に理解した
先生はなにもおっしゃらなくて
先生がその時どんな顔をしていたのかも
なにも覚えていないのだが
輪になって消えた、
の前をどう書こうか苦労したのは
覚えている
なんでも好きなことを書いて
輪になって消えた、
と書いて済ませば良かったのだと
その時は分からなかった
分からなくてもそう書いた子は
たくさん居て
その子たちの
ノートを提出するふてぶてしい姿は
滑稽というより
確信犯的に堂々としていて
なんだか羨ましかった
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初出2003/12/27「poenique」の「即興ゴルコンダ」