雨の子
木立 悟


いくつもの傷
いくつもの雲
風をのぼり
空の終わりで出会い
いくつもの海を越えてゆく


光は雨に溶けてゆく
過ぎた日の光も
明くる日の光も
溶けあいながら分かれはばたき
明るい雨のひとつひとつが
明るい鳥になってゆく


雫に乗っては下りるもの
ひとつの窓をひらくもの
明るい鳥は入り込む
ひとりの午後の胸を照らし
時間のように去ってゆく
人影のない街を過ぎ
低い空の下の道を
原のむこうへと去ってゆく


ひとしきり鳴り
雨は降り終わり
土に咲く灰紫の光から
水は湧き出て
指先には触れるのに
手のひらには届かない
まだらな青の波になり
雨の名残りを消してゆく


自分で切った髪のなかの
いちばん長いひとふさを編んで
誰もいない鏡の外へ
さびしく微笑むひとりの午後に
鳥は雨の名前を与える





自由詩 雨の子 Copyright 木立 悟 2004-01-10 22:42:10
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