NOTREMUSIQUE
本木はじめ

光に向かい その光で自分たちの闇を照らす
   私たちの音楽だ すべては私たちの音楽だ
               by JEAN-LUC-GODARD『NOTREMUSIQUE』







キリーロフ、奪うのならば奪うがいいゆめもじさつも泡立つ窓辺








美しいアンテナ



美しい自殺未遂をしませんか赤いアネモネ握り潰して


アンテナをください僕もそうやって虹の向こうの地獄を観たい


フラスコにあなたは揺れるたぶん僕の好きな色は透明


空間に切断される恋人の欠片としてのダリアを舐める


ほほえみつつ真っ赤な海から浮かび上がるあなたに魅入る暗室の午後


街までは二百五十歩ほどでしてつまり旅客機なんて要らない


天窓に星空満ちてここはもうおとぎ話のようなげんじつ


もう二度と馬鹿げた真似はしないように左手首は没収します


出会いより別れの方が多いことなんてないのに秋風が吹く


秋という病がふたたび発症すあなたの綺麗な耳を下さい






チアノーゼ、チアノーゼ



チアノーゼ愛しい仔猫むらさきの宇宙の肺の中でおねむり


餌を与えても死なないのではなくて餌を与えるからなつくとは限らないを知る


100グラムの仔猫片手に持つ秋夜握り潰したくなるのも愛か


仔猫の目ひらくまもなく思春期の少女みずから屋上へゆく


身動きのとれないカゴの内側でもうどうしても僕はそとがわ






NIGHTCREW



サタデーナイ(ト)ぼくはぼくから捨てられるまもなくゆめのひだいかはれつ


骸骨が蝶を追い駆けゆくのやまにくたいすでに風の胃のなか


高台で見下ろす街の明滅すひかりが闇を侵すふしぜん


もう苦しまぎれのうそはつかなくていいよきょうそさま


ナイトクルー、と刻印されし服を着るきみの電話の声の背景


あじさいは季節はづれだからFemale、半透明のおんがくでいい?


聞いたことのない伝説だからそれはこころのなかに閉まっておくといいよ五、六年


はがれないはがねのゆびわのぎんいろをにこんでゆめをきらきらにする


水槽の向こう側にはきみがいてあてににしないで世界大戦


教会の鐘を鳴らせば鳥たちが飛び立ち朝は徐々に散りゆく


絶叫のごとくひろがるミルクビン落下したその白い瞬間


ああ、もはや、きみからはじまるものがたりひびくらくらいふるいどのくつ


とうとう、不可思議なものが消える 重傷の球体を抱えて観る映画も


噴煙のなか点滅す旅客機は世界終わりて着陸できづ






autumn



風を追う少年取り残されたまま建設途中の高速道路


少女への想いいつしか消えてゆく夜の海辺の焚き火のように






宇宙葬送曲(星の合間を駆けてゆく声)



幾億のひかりの蝶が生まれゆく星間爆発のちの数秒


土星の輪まわるゆうがた鳥たちはいつも裸足のままで撃たれる


リモコンをきみは手にしたまま闇を漂ふ宇宙の色変えながら


幾千のフレア宇宙へ舞い上がるきみは眠っているというのに


遂に地球儀廻すことなくガリレオの等しく朽ちてゆきしゆびさき


カシオペア燃えて流れて墜ちるまで椅子に座って読書をしよう


あなたからもらった星のまばたきという表現が時折りひかる








エフゲニー、すべてのひとは/人々は。執行猶予と言う名のひかりぎせいのうえでぎせいをこばむ






短歌 NOTREMUSIQUE Copyright 本木はじめ 2005-10-25 04:11:50
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