くまつま
大覚アキラ

ねえねえ と よびかける妻の声に
ふりかえってみると そこに熊がいて
つぶらな瞳で ぼくを見つめている

月9って何チャンネルだったっけ と
テレビのリモコン片手に熊が訊く

おどろいて言葉を失うぼくを
熊は小首をかしげて
不思議そうに見つめている

いつのまに
妻は熊になってしまったのだ

さっきまでキッチンで
洗い物をしていた細い腕は
丸太のような太い腕になり

今朝ベランダで
洗濯物を干していた薄い肩は
凶器みたいに厚い筋肉の塊になり

おとといの夜ベッドの中で
ぼくの腕に抱かれていた白い肌は
針金のごとき剛毛に覆われていて

ああ こんなことになるんだったら
昨日の夜も 妻を抱いておけばよかった


自由詩 くまつま Copyright 大覚アキラ 2005-10-21 17:10:58
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