水鏡
あやさめ

朝の訪れたこの空間がとても狭くって仕方がない
視界いっぱいに氷の窓ガラスが張り付いている

ミニチュアの残月を蒼さに溶かして飲んで
机の前にナイフとフォークのない朝食が

コップの上まで水を浸して
金魚のふりをした誰かが沈んでいる姿を
六面体の写真で記念にします


靴のない玄関から猫の鳴き声だけ残して
窓枠の外から軋む風に足音の幻想を重ねて

背中側に想うのはいるわけでもない人たち
うつ伏せになって顔も見えない集団で 変わらず

主のいない金魚鉢から少しずつ
熱が勝手に飛び出してはいつもより
機嫌の悪い……悪かった彼女を焼いていきます


コップの中の水はいつまでも揺れてこぼれないままで
消えてくれないいつもの朝を吸い込み

朝の過ぎ去ったこの空間はとても狭くって仕方がないけれど
視界いっぱいの氷の窓ガラスだけは溶けて消えていきます


自由詩 水鏡 Copyright あやさめ 2004-01-06 21:42:16
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