*れきし*
かおる

家を飛び出たとき
こっそり タッパーに入れて
持ってきたの

毎日手塩にかけて掻き混ぜて
泪も汗もいい塩梅に混ざり合い
父と喧嘩をしても必ず
母は
台所でぶつぶつ罵りながら
一心不乱に掻き混ぜていた
食卓には欠かさず香の物

一人分のお漬け物ならスーパーが
絶対安上がりに決まっている
大好物ではないはずなのに

怒っていた母の背中が
チンと収まっていく不思議

糠の冷たさと暖かさは
幼稚園のときの粘土細工に似ていた

出来上がるものは象の置物ではなく
シャッキっとした歯触りの粋なキュウリ
けっこう美味しい

そう、うちの冷蔵庫には
代々綿々と続いてきた
不満と怨念でぐつぐつスープな
糠床が
ちんまり居座っている


自由詩 *れきし* Copyright かおる 2005-10-11 17:58:01
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