まだ生きてるひとへの恋文
佐々宝砂

蜜柑の里の海辺の丘で
まるで童謡の一節みたいに
蜜柑の里の海辺の丘で
太平洋に浮かぶ船をみている

船は遠くて
たぶん大きいのだろうけど
ちいさくみえる
たぶん動いているのだろうけど
止まってみえる

ずっとあそこにいるようにみえるけど
いつかみえなくなる

丘の道は冬もみどり
這い松みたいな松のうえ
しょっぱいからっかぜが吹きあがり
吹きくだり

それでも丘の道には日があたるから
海を見下ろす丘の道は
吹きさらされてなおもみどりで

あかるいのですよ
乾いていても
冷たくても
すさんでも
あかるいのです
つよがりではなくあかるいのです

でも

でも

手をふる相手はみえなくて
なのに
手をふってみる

ばいばい
好きでした
大好きでした

すこしだけ嘘
終助詞の部分が嘘
ほかはみんなほんとのこと

空はあかるく海はひろく
蜜柑の里の海辺の丘で
まるで童謡の一節みたいに
私は海を見下ろしている

私は南国の人間だから
私の歌は演歌にならない


自由詩 まだ生きてるひとへの恋文 Copyright 佐々宝砂 2004-01-06 03:51:04
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