眠りのシステム
塔野夏子

眠りは当局から支給される
月にいちど注文をすることになっている
私は主に スタンダードな「白の眠り」を注文する
けれどいつもおなじ眠りというのも
あじけない気がするので
やはりスタンダードな「青の眠り」もいくつか
それから「シルヴァー」や「ペールピンク」や
「ラヴェンダー」あたりも少しとりまぜてみたりする

若い頃はもっといろいろな眠りを
ためしてみたものだけれど
体質にあわない眠りを使うと
翌日の調子が悪いので
このところはもう冒険はしなくなった

だいたいは自分の好きな色の眠りが
体質にあうものらしい
好きな色といえば私の場合黒もなのだが
「黒の眠り」というのは不健全な感じだからか
当局からの支給カタログには存在しない

もっとも当局からの支給ではない
いわゆるヤミの眠りには
「黒の眠り」もあると聞いた
他にも何だかあやしげな眠りが
さまざまな暗号名で取り引きされているらしい

それから当局の支給ルート外の眠りとしては
裕福な趣味人のための
有料の眠りもある
こちらはべつに違法ではないのだが
ちょっと気取った感じの名前のが多い
「セレスト・ブルー」「ローズ・ポンパドゥール」
秘色ひそく」「浅縹あさはなだ」「杜若かきつばた」などなど
「オーロラの囁き」や「熱帯樹の誘い」なんてのもあるらしい

それはともかくとして
注文はいつも月の日数より
やや多めにしておく
だいたい一日一個で適量の眠りがとれるけど
疲れたり体調が悪かったりで
ぐっすり眠りたいときは
二個使うこともあるからだ
極端に注文数が多くないかぎり
当局もべつに文句はいわない

よっぽどストレスがたまったり
あるいは病気などの場合には
当局からの眠りではうまく眠れないこともある
そういうときには睡眠医をおとずれて
症状にあった眠りを調合してもらうのだ

さて眠りは一個ずつ箱づめされている
手のひらに載るほどの小さな紙箱だ
眠ろうと思うとき それを枕元で開ける
中には何も入ってない
でもそれで眠れるのだ
何故なのかは当局の担当者と
睡眠医しか知らない
私たちも別段 知りたいとも思っていない
たぶん知らない方が
よく眠れる そんな気がするのだ





自由詩 眠りのシステム Copyright 塔野夏子 2005-10-05 21:39:13
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