小詩集「書置き」(二十一〜三十)
たもつ

尖った粘土に
刺さった虫
のように
息だけ
している
息しか
できない

+

明方
キリンの群れが横断歩道を
渡っていく
あれは首長竜の一種だ
と弟に教える
弟は悲しそうな顔をしながら
恐竜図鑑に書き加えていく

+

愛は海よりも
深い
たとえ遠浅でも
海は海だ
愛が愛であるかは
別として

+

たくさんの背中を
見すぎて
父さん、乱視は
進んでいきます
合う眼鏡がなくて
今日も世界は
気持ちが悪いままです

+

弁当箱の
裏についた
米粒のあたりで
宇宙の四百二十三番地が
発見された

+

二人で
もっと大きな
ビルディングを食べよう
明日の話は
それから

+

昨日荷物を
引きずっていた人が
今日は荷物に
引きずられている
その様子を見ながら
母親が子供に
時刻を教えている

+

自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない

+

空は陥落した
その下には
今日も美しい都市が
広がっている
絶えることの無い
笑顔と歌声
確かに
廃墟はあるのだ
人々の皮膚に覆われて

+

色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る






自由詩 小詩集「書置き」(二十一〜三十) Copyright たもつ 2005-10-04 08:55:20
notebook Home 戻る