降り来る言葉 Ⅲ
木立 悟



天気雨が終わり
朝が降る
花の頭の魚が
光の首の鳥が
幾つもの頭の獣が
何匹も空へ昇ってゆく
海のなかのふたつの木
冬の終わりとはじまりのように
降りそそぐ朝のなかに立っている


霧は来る
濡れた道の上を過ぎ
午後の町を囲む山になってゆく
虹は来る
山すそが集まり 消えゆく場所
霧の下に立つひとりの子に向かって
虹は静かに落ちてゆく
空にはたくさんのはじまりが
見えかくれしながら連なっている
目を閉じても光は矢のように
どこまでもどこまでも飛んでゆく
虹が映り  頬を伝う
歌のはじまりがそこにある


  空をゆくかたち
  光のほこさき
  たましいの生まれた朝が見えるよ
  空のかげ
  行方のかげ
  手のひらに落ちるよ


青空の下の
明るい異形の動物たちの前に
蒼と銀の
光の粒の柱の前に
ひとりの子が両腕をひらいて歌っていて
空へ昇るすべての粒に洗われて
うなじも背中も微笑みながら
たくさんの異形の動物たちとともに
午後の光に遊びはじめる
かがやきはそのかがやきのまま
歌はその歌のまま
どうしてもどうしてもそこにいるように
どうしようもなくかがやいている


海のなかのふたつの木を
夜が通り過ぎてゆく
冬の終わりとはじまりのように
歌の終わりとはじまりのように
ひとりの子のあしあとのように
空はひたひたと白く咲きひらく


  
  空をゆくかたち
  光のほこさき
  たましいの生まれた朝が見えるよ
  空のかげ
  行方のかげ
  手のひらに落ちるよ
  手のひらに落ちるよ





自由詩 降り来る言葉 Ⅲ Copyright 木立 悟 2004-01-03 14:21:26
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