台所事情
A道化








四肢を垂らし立ち尽くせば
卵は割られず何も加熱されず
窓硝子の北向け北に閉じ込められ
朝は有耶無耶のまま凝固した
無臭のお皿だけが、仄白い円形の
仄白い、せめてもの光源で


色彩の
嘗て美しく腫れ上がっていた頃の
面影の無い黒焦げを黙殺しながら
その黒色ごと冷え果てたフライパン
それでも朝は、朝
それでも、此処は台所


ほら
焼死した眼窩みたいなガスコンロと眼が合えば
カチリ、通じ合う、わたしたちは化学変化など期待せず
どんな化学変化も結局は朝ですね、と笑う
諦め切ったガス漏れのようにスースー
台所ですね、とわたしたちは



2005.9.28.


自由詩 台所事情 Copyright A道化 2005-09-28 08:37:44
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