パヤオの女
狸亭

マレー人たちが群れ遊ぶ夜
路地裏に押し潰された家並
薄明りのしたで媚びを売る
タイの女たちの問いの意味 

なにも特別な意味などない
男たちが女たちにもとめる
たったひとつの部分的な哀
ハジャイの夜の底をめぐる

コンバンワ。思いがけない
耳慣れた発音に振り向くと
小柄な女の笑顔と目が合い
連れかえって寝物語のあと

垂直の神と水平の神の交差
長谷川龍生の宿題を果たす
みましたよ、異国の貧しさ
楽天的ローマンチストです

ひとりくらい助けなくては
この手元のお金がなくても
ぼくの暮らしがいま瀬戸際
という訳ではないせめても

わが存在の証しを残すこと
やさしい気分にさせられて
かわす英、日、タイの片言
すぐ夢をみる甘いユマニテ

色あせたこころのさびしさ
かさねあわせる文明の歴史
悲しみを伝えゆれ動く乳房
南の辺土で思う北の里恋し

季節のない常夏の椰子林に
ふく風も刻々と、色や香り
微妙に変えつつ時は虚ろに
過ぎて行きめぐるからくり 

チェンマイからチェンライ
チェンライからパヤオへと
二十六歳から突然三十三歳
ひとりの女の辿った生の跡

よりそうこともままならず
北と南に別れて暮らす二人 
君はタイ、俺ジャパニーズ
「恋は半酔で」と友の便り。

 (押韻定型詩の試み 28)


自由詩 パヤオの女 Copyright 狸亭 2004-01-03 06:51:32
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