火事の日の手記1
炭本 樹宏

  平成15年5月14日 某病院で記す

 12日の朝、茶摘のバイトに行くのに6時45分に家をでた。その日はバイトを始めて3日目だった。茶摘をし始めてすぐに妹から携帯電話が鳴る。なんと、家が燃えているとの連絡。
 しばらく、「うそやろ、うそやろ」頭が真っ白になる。妹がそんなイタズラ電話をするはずがない。
 まず、会社に電話して事の次第を伝えて、農家の主人に話して仕事を中断して帰らせてもらった。混乱して歩きながら、とりあえず、警察に電話すると、僕の向かいに住んでる警官をしてるご主人がでて、びっくりした。こんな偶然もあるものなのか。
 そして、近所の先輩のところに電話して家の様子を見に行ってもらうように頼んだ。

 先輩から着信があって、電話にでると、あわただしさが伝わってきた。先輩が言うには隣りのTさんの家には燃え移ってないとのことだが、まだ、火の手は上がってると言う。父にも電話した。その時点でわかっている範囲のことを話した。
 
 とにかく、バイクをとばし急いで帰った。家に着く少し前に妹から電話があって、怒鳴り散らされた。「なにやってんねんな、アンタ!」
 そして、家に着いた。

 すごい人だかりができていて、誰が誰だかわからない。火の手は消えていた。家の様子を見る間もなく、警察に尋問された。車の中に座らされて、名前、生年月日、家族構成、吸ってるタバコの銘柄、朝食に何を食べたか、などを訊かれた。
 それが終わって、家の前に行くと父にあった。張り詰めた顔をしていた。家の前には警官、消防隊員らが2、30人はいただろうか。

 その中にTさんのお父さんとお母さんが表でたたずんでいた。妹は取り乱していて、僕の首根っこをつかんで、「あんた、なにしてんねん!土下座して謝り!死んでわびっ!」とかかってくる。近所のおばさんが妹をなだめてくれた。
 妹と口論している場合じゃない。とにかく、状況をつかまなければ。その時は、まだ、自分の過失かどうか、わからなかったし、タバコでか?という感じだった。

 分からないまま、Tさんに謝った。そして、視界にはいる全ての人に謝った。




散文(批評随筆小説等) 火事の日の手記1 Copyright 炭本 樹宏 2005-09-28 00:32:22
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