僕はガリポリを知らなかった
士狼(銀)

倒れて佇む静かな兵士
鼓動も呼吸も途切れたままで
過酷な大地の腐敗は進む

スレンダーボディが自慢だった若い兵士は
その面影を微塵も残さなかった
生きていた証さえ残せなかった
彼と一緒に彼の人生は塵々に焼失し
軽やかに一陣の風に吹き飛ばされていった
家畜のように体は膨らみ破裂した腕
腹に溜めたしにガスを吐き出させようと
かつての同僚が銃爪を引く

連合軍は撤退
残された戦地には白い墓が夕日を背に並んでいる
一面に並び黙っている
風が遊んでも誘っても黙っている
十字架の前に植えられた向日葵は
首を落とし泣く
一斉にうなだれて風と共に泣く
悲しみに満ちた水平線
どこからか挽歌が聴こえる


墓守の老いた大尉は
『トルコの勝利は称賛に値する』と
胸を張り

そして笑った
向日葵は首を落としたまま


自由詩 僕はガリポリを知らなかった Copyright 士狼(銀) 2005-09-27 02:21:40
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