深遠なる夜に
汐見ハル

夜空にはった薄い
うすい膜のような
しろい雲の
あまりの遠さに
秋を知る
気づけば
月も
星も
なにもかも
わたしたちを包むせかい
高みにみあげた
綺麗の
すべては
急速に
わたしたちから遠ざかり

隣り合わせにあった熱が
いつのまにか
気配を消して
逃げてゆく
せかい
夜に沈み
深海に棲む魚
みたいに
知る
肉体は
輪郭
ということ
浮かび上がれない
泡となって
空洞を抱きしめている
その骨格の
確かさといったら
なくて

宇宙は
膨張している
たとえば死
とか
生まれたときの記憶と
ひとしく
わたしたちにはいつも
感覚することはできない
けれど
支配
されている
有限の無限に
混沌をはらむ真空に
血のかよった
孤独に

遠ざかり
果てを伸ばしながら
最果ての向こうを
めざして
いつか
ふれあう
べつの空洞を
さがしもとめている

草を渡る風
虫の音は
つめたく澄んだ水が
波紋をひろげるようにして
親愛なる静寂を
つたえる

まるくとじた虹が
月を
抱きしめて
ほとり、

涙をこぼしたなら
温かな羊水のようで
うれしい



自由詩 深遠なる夜に Copyright 汐見ハル 2005-09-26 09:17:56
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