降り来る言葉 Ⅴ
木立 悟



悲しい歌がひとつ終わり
静けさが喜びのようにやってきて
ふたたびはじまる悲しさに微笑む
雨の花に空は映り
空には雨の地が泳ぐ



水の歌が降り
歌の水が降り
鳥は失った翼に出会う
はじめてのはじまりの金色を見て
子らはみなよろこび
じっとしていられない笑みをほどいた
笑みは新しい手になって
常にひとつの手になって
終わらない夜に火を結んだ



動くもの
動かないものが混じりあい
別の動きを浴びている
読むもののない字のような
歌と色とを浴びている



つらぬき ひろがる
みなもと その端
すがた ひろがる
一から一へ
無から無へ
無の前で微笑む有限へ
すべてのすがたを表すために
すがたのすべてを見ひらいて



一息一息のいびつさからも
黄金を持つものは生まれ出て
ただまばゆさを疎まれて
ひとり野の果てに追いやられても
見えない色を数えつづける
その手のひらとともにかがやいている



重なる指の間から
いま見えはじめた地図を染めて
夜から朝への器はかたむき
灯りの水は注がれてゆく
原のなかで見つけた手のひらに
すがた無く握り返す手のひらに
断たれた道をつなぐ手のひらに
自らを貶めることのない手のひらに






自由詩 降り来る言葉 Ⅴ Copyright 木立 悟 2003-12-31 20:00:29
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