海の中で生まれた気がする
霜天

海の中で生まれた気がする
始まりは遠い手のひらの中
重ね着をして、重ね着をして
風邪を引かないように眠っていた頃
どこへでも、の世界は
指先まで暖かくて
つまずかないように歩けば
いつまでも暮れてはいかなかった

大きな約束は
遠回りをするよりも
手を繋ぐよりも
近いような、遠いような
あの頃はもっと、それよりも
深いところで漂って


海の中で生まれた気がする
大きく、深く呼吸をするのを
水底から見ていた気がする
きらきらと晴れた水面を
つかみたかっただけなのかもしれない
今もただ
つまずきそうになる足で
つかみたかっただけなのかもしれない


水底から、浮上する
泡がはじけて溶けるように
何十分とも、何十年とも
それだけの世界を漂って
ただ、ただいま、とだけ
伝えたかった
のかもしれない


自由詩 海の中で生まれた気がする Copyright 霜天 2005-09-19 01:56:53
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