蜜柑の味
プテラノドン

「ぶち猫も欲しがってら。」
ばあちゃんの言うとおり、窓の外で三毛猫が
僕らが食べる蜜柑の行方をじっと見ている。
けれど本当に三毛猫が
蜜柑を欲しがっているかは知らない。
一体全体、僕は(きっとこれからも)
知らないことばかりだ。
今朝、近所に住んでいる佐久さんが
病院を抜け出して
長い道のりをバスにも乗らず
畑道ばかりを歩いて
泥だらけの足で
途中、八百屋で蜜柑を買って
トンネルを二つくぐって
腰の曲がった格好で
僕の家の玄関に立って
「いつも世話になっているから。」と言って
ばあちゃんに渡したその蜜柑の味だけだった。
「美味しかった。」ばあちゃんはそう呟くと
台所に立って、今夜は何が食べたい―?と訊いて
夕食の支度を始めた。その時、
僕はたくさんの可能性を考えていた。
それがこれから生きていく上で、
重要な事に思えて仕方なかった。
分かっていても知らないことや
知っていても分からない事が多くて
結局僕は、「何でもいいよ。」としかこたえられなかった。


自由詩 蜜柑の味 Copyright プテラノドン 2005-09-16 22:57:43
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