降り来る言葉 Ⅵ
木立 悟



散る空があり 重なって
地にひとつの花を描いた
子供がたくさんの光を飛び越えていった
声の飛沫はらせんに昇り
かがやきとかがやきとかがやきの差異が
手をつなぎ かすかな羽のようになり
けして雲を見捨てることなく
雲とともに変わりつづける
新たな空になっていった



無口な春の明るさの前で
すべての木は亀裂だった
その向こうにあるものから光がこぼれ
粉のように手首を冷やした
金と銀とに散りひらく
片方の目の視線の先に
小さく細く降り来るもの



森のかたちをした霧が
水の流れに沿い立っている
家と家の間を埋める昏い花から
絶えず風が吹いている
雨の声がやってきて
はじまりの手からはじまりの手へ
確かに香る霧の枝を手渡している



生まれ得なかった子の羽が
冬の終わりに
戯れに
息を吹きかえす
晴れわたる空を見つめる左目に
別のことわりの花が咲いている
雲という名の音に向かって
光の棘にまみれた腕を
捧げるように差し伸べて
ひとりの朝の手のひらに
ひとりの蛾が生まれるのを見る
ただひとつの心の羽の日に
すべて異なる姿の羽の日に





自由詩 降り来る言葉 Ⅵ Copyright 木立 悟 2003-12-30 20:49:51
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