夜とはばたき
木立 悟
傾きに鳴る傾きに沿い
鏡は鏡の名を告げる
はざまは全と無にかがやいて
重なりと輪のうたをくりかえす
背後から照らされ
影は躍る
足踏みの姿に揺れながら
より速い夜を求めつづける
道のなかに枯れ花があり
夜の雲を見つめている
風が連れて来ては連れ去るもの
やがて風をも連れ去るもの
羽のような生きものが
雨のあとの土にあつまり
白く白くはばたいて
飛べぬまま夜をすぎてゆく
それはおまえにはならんだろう
それはおまえとはちがうだろう
誰かがふいにとおりすぎつぶやき
左目をしびれさせ持ち去ってゆく
夜はともすればふたつです
夜はともすればあなたです
夜はともすればひとつです
夜はともすればありません
聞いたことのあるうたのつづき
どこで聞いたのか思い出せないうたのつづきが
どこからかどこからかやって来て
夜の明るさを撫でてゆく