半仙戯
佐々宝砂
うつし世は春雨なりき芝居果つ
渡り廊下の左右より春の闇
洗ひ髪夜しか逢へぬ人と逢ふ
揚花火仰ぐ横顔盗み見る
首筋に跡を残せし残んの蚊
衣かつぎ妻は家では酔へぬもの
諍ひて逃げし野原のゐのこづち
遠くまで来て家出めく十三夜
秘密めくコートの裏の破れかな
狂ふことしばし許され野火猛る
涅槃図の口開けて泣きみな静か
漕ぎに漕げども繋がれし半仙戯
「半仙戯」とは「ブランコ」のことで、春の季語。これらの俳句は、私がとある俳句結社に所属していたころの作品である。わざわざ「不倫をしている人妻」を主人公にした物語仕立ての連作にしたつもりだったのだが、句会のみなさん本気にとってくださり、なにやら心配されたり共感されたりして、私は非常に困ったものだった。田舎の句会ってそんなものだ。そういう空気が悪いとは言わない。今は、ほのぼのしていいんじゃないかと思わないでもない。でも、当時の私は毎度「これはフィクションなんですよ」と説明することにくたびれてしまい、そうでなくとも摩擦を起こして鬱ってしまったため、結社は抜けた。結社にいたことは、それでも私にとってプラスであったとは、思う。今もそう思っている。
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Feminine Fetishism