終わりのない唄
umineko

−程なく日本は滅亡する。

地磁気の周期変動も。
社会学的な相互認知の反乱も。
卵細胞に起因する生殖能の低下も全部ぜんぶ。すべてぴたりと一致するのだ。あと1週間、あるいは数カ月。すでに預言の域は超えた。「間違いない。」なんだか可笑しくて、夜のニュースをぼんやり眺めてる。

次の朝。有給をとって君に逢いにいくことにした。君の街はここからひどく遠い。列車で何時間もかかる。途中2度ほど大きな駅で乗り換える。ひとつ目の大きな駅は、この国でもっとも人口の集中する場所だ。集中がゆえの破綻を指摘されて久しいが、それでもその街は拡大し続けている。抑制遺伝子が欠落したんだろう。人も街もみんな、同じだ。

高かった太陽も、すでに傾き始めている。「6時間か…。」この小さな国でもまだそれだけかかる。政府のいう「人と物との自由な移送ネットワーク」構想は、いくつかの地方都市にクリーム色のアンカーを建設したにとどまった。用地取得がどだい無理なのだ。結局こうして昔ながらに列車を使っている。だが、まだ都市機能が残っているうちはいい。多くの人がこの国の異変に気付き、混乱して職場を放棄したなら、どうやって君の街までたどりつけばいいのだろう。本当は、一緒にいればいいことくらいわかっているのだけれど、そうもいかない。君には君の、僕には僕の生活がある。愛することと、生活とは違う。それは僕と君との、結論。

まだ君が帰ってなかったので(だって平日の午後4時だ)、港の方まで足を伸ばす。海鳥は自由かと問われれば、たぶん違うと答えるだろう。僕にはまだ空があるけれど、彼等には何もない。選択肢が与えられなくて、何の自由か。

漁船と漁船が重なりあって、ぎいぎいと低く鳴っている。打ち上げられたヒトデはもう、星形に息絶えている。海の香りは、いい。存在をさり気なく伝えてる。だから好き。

さんざん時間をつぶしたあとで、君にメールを打つ。…今日暇なの?…ウン、割と早く終わったんだ。返事は少しゆっくり。君の部屋の前に立つ。チャイム。人の気配。ばたばたと近づいて。

「やほ」 …え?
 どうして?そりゃそうだろう。「迷惑だった?」ううん、でも…

「実はさ、どうもこの国は駄目らしいんだよね、だから逢いに来ようかなって思って。」
そっか…。

君がまっすぐに僕を見る。そしてゆっくりと君に戻る。うん。わかった。僕は後ろ手にドアを閉める。君はキッチンへと歩き出す。

君の肩に手のひらをのせる言い訳を。僕はずっと考えている。
        




自由詩 終わりのない唄 Copyright umineko 2005-09-13 11:06:24
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