家なき子(名作贋作劇場)
佐々宝砂

カピよ、そう吠えるな。
レミはもう眠ってしまったよ。
わしも眠りたいのはやまやまだが、
年寄りはなかなか寝付けないのだよ。
ごらん、水に映る儂の顔はすっかり年寄ってしまった。

思えば長く旅を続けたな。
儂の連れは犬と猿、それから古いこの手風琴、
明日を思い煩うこともなく、
辻から辻へ家から家へ気楽な旅路、
時には炭坑の底にまでもぐったものだ。

しかしいま儂は明日という日が恐ろしい。
年寄って死が近づいたからではない。

レミは母親と父親に再会するだろう、
レミとその家族はそれから幸せに暮らすだろう、
そうでなければこのお話は終わらぬ。
しかし儂はその日が恐ろしい。
レミなしで儂は旅ができるだろうか?
皆目見当がつかぬ。

エクトール・アンリ・マロよ。
そこまで考えてくれているかね?
物語の年寄りに、
養老院は用意されているかね?

そんなものがあるならば、
儂はせめてカピを連れてゆきたい、
レミにはレミの幸せがいちばんよいが、
儂にも儂の幸せがあるはずなのだから。


自由詩 家なき子(名作贋作劇場) Copyright 佐々宝砂 2003-12-30 06:05:48
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