札束と勇気
示唆ウゲツ

それは眠りながら

君の体を行き交う虫を捕まえて
虹色に光る魚を探したかった

なにかを追ってどこかまできたけど
帰るための電車も小銭もなかったんだ
唐突で従順な世界の中で
僕は自分のことをあざ笑う覚悟はできていたのだ

青空に淡々と注がれていく茜色を眺めながら
黄色い人間から盗んだぶどうのお酒を振りまいた

濁ったビンの口に人差し指を入れて
生活の憂いと指についた酸味を舐めとった

それは眠りながら近づいていく
誰かがまだ正気だった頃のお話

郵便局の前で

市役所の前で

魚屋さんの前で

おひとついかがですか?なんて言っていた君が
冷感だったころのお話

ところで僕には
今、帰る術もないので
ポケットのついた両胸に札束と勇気を詰め込んで
干からびた猫でも撫でながら夕闇をタテに切り裂いていく

それは眠りながら


自由詩 札束と勇気 Copyright 示唆ウゲツ 2005-09-10 02:28:18
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