花火
あおば



あれ、おかあさん

この花火どうしたの、もらったの


今日はけんちゃんの命日だからね

買ってきてもらったんだよ


こんな暑い日だったのですか


いや戦死公報に載ってただけさ

亡くなったのはいつどこだかわかりゃしない

昭和19年夏、ニューギニアのどこかで

なんにも食べるものがなくて死んだんだ



あの子は元気で気転の効く子でね

木登りだって、泳ぐのだって

魚釣りだって、何やらしたって

いつも一番で、話もおもしろいから

女の子にも人気があって

毎日がほんとに楽しみだったよ

よく私の手伝いもしてくれてね

お駄賃をあげると嬉しそうに

花火を買って近所の子供たちと

遊んでいたんだよ




ねずみ花火はくるくる回るので

女の子は怖がるのから

いつもあの子がつけてやってた

しっかり火をつけるから

立ち消えなんてことは

絶対に無いんだ

学校の成績だって

とっても良かったんですよ




あれから、もう55年が過ぎて

責任者も消えてなくなり

みんな忘れてしまった

従兄の健一さんのことを

こんな風に話す人も

母だけになってしまった




けんちゃんが死んで

敗けてから私が生まれた

戦争放棄の新憲法も

リストラ対象の中年になり

利益追求の経営者の冷たい目に

わけもなくおびえている




また、けんちゃんみたいに

赤紙もらって行くことになるのかね

この頃のやり方を見ていると

すぐにそうなるかもしれないね

おまえはもう役に立たないけれど

あの子たちはまた行くことになるんだよ

なんにも知らないで、無邪気に花火で

遊んでいるだけなのに






2000/09/15



未詩・独白 花火 Copyright あおば 2005-09-10 02:07:16
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