ひかりから みずから
木立 悟





生まれ ささげ 手わたし 去る
鏡のなかに増えてゆく
誰もいない家並みに
打ち寄せるすべての見えないもの
やわらかく 冷たく
悲しいもの


暗がりに立つ光の線が
自身さえわずかしか照らせずにいる
湿り気を伝う銀の粒たち
夜に迷い
夜を巡る


ひろく低い空の前で
両腕をひろげる葉のない枝
汚泥に倒れ伏した木々のため
光から水から来るもののため
雨のなかに立ちつくしている


文字の縫い目
言葉の抜け殻
どこかへ去った行方のかたち
支えることなく抄うかたちに
空へ向かい 腕をのばす


雨を飛び
ひとつのかたまりの姿で
雨をすぎ
傘の群れ 足跡の道の終わりに
水の枠からあふれだす水
ひりひりと明るい泪を知る


絞め殺さるる声うずたかく
やがて原にくずれ倒れる
目の奥の憎しみもよろこびも
洗い流せず去ってゆくもの
濡れた土にはばたく手のひら
指から指へのくちばしのうた


うたうことなくうたいつづけ
生まれつづけ生まれつづける
どこにでもある水をはじまりを
からだの内に外に聴くとき
死すもの生まれしものの向こうに
そのままのそのままの花房を見る








自由詩 ひかりから みずから Copyright 木立 悟 2005-09-09 16:49:05
notebook Home 戻る