椰子の実ひとつ
恋月 ぴの

男がケンタの二人掛けテーブルに座り
何やら絵を書いている
風体には似つかわしくない童話の挿し絵
雰囲気には似つかわしくない
どこまでも明るく優しい印象の絵


そんな男の斜め後ろで
僕は詩を打ち込んでいる
所謂ケータイ詩ってやつかな
メモ帳にピコピコ陰鬱な詩
叫びのような暗いやつ


男は何枚も絵を書いては
壁際に並べている
絵は誰かの視線を待っている
柔らかな掌の感触を待っている


僕はと言えば何の為に詩を打ち込んでいるのか
幸いにも世間の情けに救われて
とりあえず職に就き
仕事をサボってはケータイ詩に興じ


出来上がった一編の詩をひとり眺め
自己顕示欲と自己嫌悪の狭間で
機嫌良くなったり
機嫌悪くなったり


24色の色鉛筆で描かれた童話の挿し絵は
可愛げな額に収められ
あどけない少女の小部屋で
彼女の夢物語と戯れるのだろうか


そして僕の陰鬱なケータイ詩は
ネットの海をどこまでも漂い
白い砂浜に打ち上げられた
椰子の実ひとつ
君に拾われるのを待っている


自由詩 椰子の実ひとつ Copyright 恋月 ぴの 2005-09-08 07:13:53
notebook Home 戻る