こだま
木立 悟





風は曇り
硝子のひと欠け
わずか わずか
と つぶやかれ はじまる
蝶の生まれやすい午後


葉と葉のあいだ
やぶにらみの空から
静かな土から
さらに高く さらに低く
見つめるものの目


はじまりと終わりのにおいも無く
季節はふたつ 並んで歩む
風にただよう
甘いこめかみ
蝶は惑う 蝶は迷う


扉がひらかれ
閉められた後も
影の動きはしばらく止まない
あたりの音はうたばかり
うたに届かぬうたばかり


夜に昇り朝に昇り
落ちてくる水 落ちぬ水
一瞬は重なり 空にひらめき
水はふたたび
ひとりを選ぶ


旅人も化石も知らず火は歩む
花が凍るところに花は無く
うたが凍るところにうたは無い
蝶はひとり 午後に生まれ
姿の波紋を見つめつづける







自由詩 こだま Copyright 木立 悟 2005-09-04 19:22:32
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