雨のなかの火
安部行人
夜明けまえ、
廃止された鉄道分岐点で
ぼくは枯れ枝を燃やした。
低空によどむ雲、その裂け目に
うすい煙の筋が消えていった。
正午まえから雨。
うす暗い昼のあいまにぼくはウィスキーをのみ、
あやうげに拡がっては収まる
炎をみつめていた。
なにか立派なことを想っていたのではない、
ぼくにはそんな大層なたましいなどないのだから。
ただ昨日と今日の違いとは何なのだろうと
ふと思ったりしてみた。
時間はみな目の前の火のなかで灰になってしまうといい、
そのためにならぼくは雨のなかの火を絶やさずにいよう。
くりかえして夜明け、
色彩はもう終わり。
ぼくは雨のなかの火のまえで
時が燃え尽きるのを見ていたい。