奴への送らない手紙
たりぽん(大理 奔)

奴は
山に登るのだ
そう言っては、ニコン党のくせに
私のオリンパスを借りに来る
高山植物を撮るのだという


いつも汚い日焼け顔をしわくちゃにして
稜線を越えていくホシカラスの夫婦
山頂のケルンに引っかかって落ちない落陽
天幕のまわりを歩き回る夜中の足音や
星雲が凍る音のこと
本当か嘘かわからないことばかり
笑いながら、真剣に語って出発する
気を付けて帰ってこいと言う
私の話など聞くこともなく


いつだったか、奴は言った
俺は焼き鳥の串のような男になるのだと
串があるから異質な食材を同じ炎で料理できる
串は屈強なリーダーなのだ
そんな理屈にもならない理屈を
ビールの泡を舐めながら


奴の撮ったコマクサが、入っていた
オリンパスは十二神の住む山
はっ、気取ったつもりかも知れないが
岩に当たって光軸が曲がったから
奴と同じで、もう二度と山には行かない


結局おまえは
ほんと焼き鳥の串のようだった
美味しく想い出を
食べてしまったあとの
串のような奴だった


どうしているだろうか友よ
けがが原因で、山をやめたおまえは
それでもシェルパの村で
宿屋をやるのだと言い
ニコンも持たずに旅立ったまま

元気か、元気にしているか


元気か 元気にしているか



元気か 元気にしているか





自由詩 奴への送らない手紙 Copyright たりぽん(大理 奔) 2005-08-24 22:15:27
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