油蝉
あおば



谷口さんちからきた
シェトランドシープドッグの仔犬
お利口なので誰にも誉められる
公園で遊んでいても道を走っても
嫌な顔をされることがない
私の手柄みたいな顔をして
今日も散歩に連れてってもらった

谷口さんも犬達と遊んでた
谷口さんちは南の端
日当たりが良くて明るくて
半分空の中にあるみたい
谷口さんが歩いてる
スラリと伸びやかで
満足そうに利口そうに歩いてる
会社の部長さんを最後に退職し
ときどき犬を連れて
ゆったりと歩いてる

夏が来て蔦が這いまわり
谷口さんちにはふかふかな
緑の壁が出来ていた
今日も高く青い空中に
おっとりと浮かんでる
谷口さんが居なくなり15年たちました
無邪気な犬達の遊ぶ姿も無くなって
残された人たちは忙しい現在を
慎ましく過ごしているから
谷口さんの姿も犬達のはしゃぐ声も
走る姿も見ることがなくなった

谷口さんちの前にいってみる
百日紅が咲いて緑の壁に
油蝉の声が反射する残暑の中
西日を浴びて明るく光っていた
谷口さんはのんびり外眺め
微笑してから散歩にでかける
こんにちはの挨拶はいつも
礼儀正しく気持がよい

ゆったりと今日も
谷口さんが歩いていく






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作2000/08/17


自由詩 油蝉 Copyright あおば 2005-08-24 04:07:15
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