去り行く人は、海辺の
霜天

それは、いつだろう
遠くないかもしれない、毎日、かもしれない



水平線、その丸みが空に一番近いところ
大型船が突き抜けていくのを
海辺で、並んで、手を振って
ただ眺めている人たちの姿
あれは向こうに落ちていくんだよ
空に近づいて、空を破いて
すとん、と向こうに落ちていくんだよ
そんなことを笑顔で、ただ笑顔で

長いトンネルを抜けた日
空の青さが僕らに一番近い日
去り行く人は皆、海辺の
倒れた木のあたりに集まって
帰らない手紙を待ち焦がれている
空の近さを
雲の行方を
ふわり、と浮き上がりそうになりながら


空が青かった、海が青かった
硝子みたいな世界は歩けば少しで割れそうで
砂浜を踏む足先に体のすべてを集めて
空に通りかかった飛行機雲の先を
あのレールはきっとここにも
そんなふうに見つめながら

僕はただ、黙るしかない


去り行く人は、海辺の
皆どこまでも笑顔で、笑顔で
帰らない手紙は、どこまで行っているのかと
僕らにはきっと、知る術もなくて
遠く、大型船がごおんと空にぶつかる音が響くと
皆一斉に手を振って、手を振って、笑顔で


僕があの空に追いつけるのは
この歩幅よりも、もっと
遠く
遠く


自由詩 去り行く人は、海辺の Copyright 霜天 2005-08-23 16:26:56
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