「夢のひととき」
服部 剛

三階のレストランの窓から見下ろした
木造の橋の向こうへ伸びる石畳の道をゆく
白い服を着た君の背中はだんだんと小さくなり
緑の木々の下に消えた

立ち尽くす僕は
次いつ会えるかもわからない
遠い町に住む君の幸せを一心に祈った

 せつないなんていわないよ

 さびしいなんていわないよ

 きっと いつか また あえるから

ピザやパスタを挟んで向き合っていた君の
左手の薬指にはすでに銀の指輪が細く光っていたが
僕はこんなことを話した

「 人生は夢だよ
  どうせ夢ならいい夢を見たいから
  今まで出逢ってきたひとりひとりの面影を
  独りきりの夜の闇に浮かべて
  この両手に包むんだ 」 

( 窓から見下ろした木造の橋の上でえさついばむ鳩達と
  追い払うように舞い降りてくる一羽の黒い烏さえも
  慈しむような君の澄んだまなざしは地上へとそそがれていた )

やがて窓の外に陽は傾いて
眼下の小さい木々の葉群は風に揺れ
黄昏のうたを奏で始めた

腕時計に目を見やる君が

「 あ・・・そろそろ時間が・・・ 」

と席を立ち、僕は店の出口まで見送る

「 今日はありがとう・・・
  会えて嬉しかったよ・・・
  ずっと応援しているよ・・・ 」

君のか弱い白い手と握手を交わし
レストランを出て行く君の
笑顔の残像だけをTシャツの胸ポケットにしまい
ついさっきまで僕等が座っていた窓辺のテーブルをみつめると
空になったふたつのグラスだけが並んで窓の外を眺めていた

店内の薄茶けた壁に掛けられたモノクロ写真には
オードリーヘップバーンがはにかみ
ソニーロリンズはサックスを抱いて
寂しさを追い払うように背をしならせ
金色に開いた口は言葉にならぬメロディーを叫んでいた

音の無いメロディーに耳を澄ました僕は
ついさっきよりも丸まった猫背を
少し伸ばした 




















自由詩 「夢のひととき」 Copyright 服部 剛 2005-08-23 02:08:33
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