泳げない八月十六日 (即興)
窪ワタル

     散乱する格子らに
     畏まって居られないらしく
     文字達が泳いでいる
     水族館にしては蒸し暑いし
     少しも苦しくない
     もともと肺呼吸がとくいじゃなかったんだからいいか
     と独りの部屋




  触れてしまえないものになれないで
  胃袋で蛆が涌く
  いっそ食い破ってくれるならそれで本望


さっき送って行ったばかりだから
まだそんなに遠くじゃないよね  かあさん
線香の煙に乗るってどんなだろう

もぐるのに似てる?

運命の子は 八月になると
背負いきれない袋があるとわかるようで
拳を握り締めています
蝉が鳴いて きのうは戦艦大和みたいな雲が旋回しながら
やっぱり沈んでしまいました

つまらない喧嘩をして
首を絞められました
コロシタロウカ! というので オオヤッテミイヤ!
と応えてしまったのです
頚動脈の側の皮膚が少し 剥けました
手の痕が低音火傷みたいに纏わり付くので
まだ生き延びないといけないのですね

おめでとう と云われると
どうも均衡がとれないらしいので
僕はまだ 焼け野原のショウコクミンなのでしょうね
恥かしながら生き延びてしまいました

万歳! 万歳! 万歳! 

 

  殺意が揺れていて
  どこかに預けてしまいたいのですが
  どこもかしこも満杯なんだ
  道理で一年に3万人も捨てられたりしてるはずなわけだ


言葉で生きているんだとおもっていたのですが
どうやら言葉で出来ているらしいのです
腹がふくれないのが難点なのだけれど


  左腕を握る対になった骨は
  簡単には折れない

  謝ってばかりいるのに 嬉しい
  かあさんは痛かった筈だけど
  ずっと一緒だから
  そのうちに慣れるだろう


  運命の子 は 散乱していますよ
  生んでくれてありがとう
  なのだけれど


魚だったら よかったのかな

帰れないんだよね
鯨は ずるいよね

明日も晴れるかなあ
天気予報って意外と当たるよね

焼け跡にしては居心地はいい方なのかな


  記念日が悪いわけじゃないのに
  苛立ってばかりいます
  生まれにくい日なのですよ
  また一つ積んで
  崩れてもいて


まだ お終いにならないので
腹 減ったよ


自由詩 泳げない八月十六日 (即興) Copyright 窪ワタル 2005-08-17 11:40:25
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