記憶
銀猫
それは明け方病院からの訃報
病の床にあった父親は
生命を生きることから開放され
静かに去ったという
今を生き残るものたちは
悲しみはさておき
思い出話を必死にかき集めるが
肝心の良い写真が無い
アルバムを探す
ネガフィルムの平たい袋を漁る
挙句金庫を開いて通帳なんぞにゆきあたる
しかし写真は出てこない
(そうだもっと探すが良い)
結局葬儀を飾る一枚は
町内会の旅行で撮った集合写真の切り抜き
残されたものは初めて重要な事実に気付くが
時既に遅し
(そんなものはどっちでも良いのだ)
(それよりわたしが生きていたことを)
つつがなく葬儀の行程は終わった
(それよりわたしのことばや仕事を)
(覚えておいて欲しいのだ)
(わたしが頭を撫でた感触をおまえは覚えているか?)
(わたしが叱った行いをおまえは覚えているか?)
静止するもの
まだ先へゆくもの
一瞬にして離された世界への唯一のアクセスは
記憶