こわくない
石川和広

鳥の死んだ目
亀の
平べったいの
動かない
体は来ない
のに心に来る
心が立ちすくむ

昔は
いきものが苦手だった
来るものの
怖さを
小さい僕は
よく知っていたのだろう

今日彼女の実家に
行った
犬がいた
まだ一才にもならない
雌犬だ
家族のものより
来訪者である僕たち
のほうに突進
してくる

彼女の母親は
冗談めかして
コラ!この子は
どこの子やっていう

ふところに入って
なめる
なめる
なめられている
ほとんど会ったことの
ない僕は毛だらけ

来る
来る
麻痺してるのか
犬の力なのか
怖くない
撫でてさえいる
手が手でなくなる
動いている
犬の上を
不思議だ

鈍感になったのかな
僕は
クルクル回る犬だ
犬は暑いので
水を飲みに行く

また撫でる
毛波に
怖さが
滑り落ちていく

迎えられている
犬に
もう僕は
なすがままに
されている

両方とも
精一杯生きている
対等だ
犬の命は短い

こわさが
なくなったのでは
なく
小さい頃の
来るこわさが
ひょんと
この犬カワイイ
に飛んで行く

小さい頃の
怖さを知っていた
僕が
知らない僕
もっともっと
なすがままに
されている
いきものの僕に
逆に
歩き出す

まだ
ぎこちないけど


自由詩 こわくない Copyright 石川和広 2005-08-13 21:17:32
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