きみへの出さない手紙
銀猫


花の表紙のノォトの中に
それはそれは
大切な風に書かれていた


日記であったのか
詩であったのかも
定かでない
淡き恋の想いについて
吐き出された拙い言葉の塊


まるで
それが世界を揺るがす最大の出来事のように
ひどく真面目な文字が連なっている


きみよ
私はこんな暮らしをしているのだよ

きみよ
その人はもうすっかり
彼方なのだよ


仕事や暮らし向きや
次の歯医者の予約
それらについて
取り沙汰する毎日を
きみは想像したろうか



大人なんかになりたくないと
誰もが一度は思ってみるけれど


ご他聞に漏れずきみも
そういうけちくさい大人になって久しい




だけどね
きみが思うより
大人は夢見がちで
ずっと泣き虫だった



それはそれで
許してやってくれまいか





自由詩 きみへの出さない手紙 Copyright 銀猫 2005-08-03 21:01:29
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