おはじき
あおば

みぞれの降る中 
父のコウモリをさして
図書館に行く
(春とは名ばかり)
早咲きの水仙は凍え
風雨は破れた生け垣を震わせ
裸の額に夕暮れの灯火がにじむ
本当に寒くて泣きたくなった

(花が好きだった娘時代のこと)
美術学校推薦入学のことを口にした途端
母はワッと声をあげて泣き伏した
お父さんがカサッ原の所有権だけでも明確にしておけば
私を好きな道へ歩ませることくらい
なんでもないことだったのに
そう言って泣き伏した母の姿態に
ならぬことを口にした愚かさを後悔した
初めから諦めていたつもりなのに
幼い未練が声をあげたのだ

日々を楽しく忘れるために
レッテル貼りに勤しむ毎日
時代精神の家の子郎党は戯れて火と燃え上がり
遊びに夢中
雲となり雨となる
その中で純粋な彼岸の輝きは中途にして飛び散り
重たいものを残して燃え尽きた
 あたりは灰だらけ
 雨がぬばたまの夜の上に降りつづく
 雨が止み 風がキリを払うと
紅いスカートの女の子がやってきて
濡れた灰の中からおはじきを拾って弾くと
空は瑠璃色に輝きわたり
純白の朝を迎えた

雰囲気を複写し終えて帰る頃には日永の
暮れ六時になっていた
忙しい車を避けて路地を抜けると下水の
U字溝がぽとりと音をたてた
快い水音は軽やかに規則的にあたりに充満する
ふりかえると紅いロングスカートの四歳くらいの
少女が
底に汚水を澱ませたU字溝の縁に小石を並べ
おはじきのようにそっとやさしく落とす
いつくしむ指先に集中した彼女の眼は
機械仕掛けで精密に制御され
連続的に落下する小石の姿態のデータを
数値化して詳細に検討している







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作 1978.07.06


自由詩 おはじき Copyright あおば 2005-07-28 01:56:04
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