海辺の魔女
木立 悟



ひび割れた岩の目が
波に降る花を見つめている
鳥の翼の生えた草を
銀の署名とともにつかむ手
燃えつきることなく火のなかにある


明かりの下で器をかたむけ
草を焼いた粉を見つめる
窓から聞こえくる海が
ふたつの時に響いては増え
香りとなって棚をわたる


風が家を揺らす夜
古い家具は歌うように震え
手首に浮かぶしるしへ伝う
金の傷に描かれた
くちばしと葉のしるしへ伝う


文字も針も失くした時計に
蝋燭の時が重なってゆく
海は干き 海は満ち
とどろきはとどろきをくりかえし
窓に夜明けを打ち寄せる


古い約束はかがやいて
灯火の消えた道を照らす
手のなかの種に風は止み
砂浜はひととき翼をたたみ
波はひとつずつ足跡を喰む


ひらく音も閉ざす音も
光となって消えてゆく
種は手からこぼれ落ち
ふたたびはじまる風のなかで
翼は緑にたなびいている







自由詩 海辺の魔女 Copyright 木立 悟 2005-07-27 17:39:23
notebook Home 戻る