不連続小説 『煙道 3』
クリ

■三番目の千文字 Endo1

「煙道」と記された文献を英訳する際、誤って"Tobacco Road"としたものが広まった。
しかし「煙道」は「華道」「茶道」「柔道」などと同じく所作や精神を磨くための「道」であった。
煙道は他と異なり一道一家であり、位階や家元の制度は存在せず、「喫煙許可証」が唯一の印であった。
「大金玉」つまり煙道のバイブルたる書、「大いなる金科玉条」は、煙道の創始者の祖母の執筆になる。
創始者の名は爾故陳、吉園省は福龍園の出身であり、その祖母がパイポ・シューリンガンだとされる。
シューリンガンは今は絶滅したタアル族唯一のシャーマンであったが、あまりの名前の長さゆえ、
(注 : 彼女の本名は音にして二千を優に超えたと言われるが、面倒くさくて誰も書き記していない)
当時冷戦状態にあった旧ン連との国境で自国軍に誰何(すいか)を求められたときに、名前の途中で射殺された。
この事件が元で彼女の存在が一躍クローズアップされることとなった。この短縮名はマスコミによる。
そして彼女の著書「大金玉」がベストセラーとなった。この書には「実践」が含まれていなかった。
どうすれば「大金玉」を実践できるかについての侃々諤々の議論が、ついには国内紛争へ発展した。
事態を重く見た当時の政府はこれの収拾に当たった。「大金玉」を握りつぶそうとしたのだ。
しかしこれは成功しなかった。すると政府は国家的なレベルで「実践」を樹立すべく立ち回った。
このときに実践の具体化をするように祭り上げたのがシューリンガンの孫、爾故陳なのであった。
爾故陳はそのとき東京市で大道芸のライセンスを受けてパフォーマンスをしていた。
そこそこ収入もあった爾故陳ではあるが、彼にはただひとつの不満があった。火が使えないことだ。
そして本国からの帰還命令。「実践」の具現を求められていることを知った彼は、逆にこれを利用しようと考えた。
彼のストリート・パフォーマンスと、「大金玉」の実践の具現化、火、三つを合体させられる、彼は驚喜した。
彼は東京市にあるマジック開発のメッカ、テソヨーから多くの道具を購入し自国へと戻った。
こうして爾故陳の卓越した才能により、一種の人民統制を計ろうとした国家が逆にコントロールされていった。
2年の歳月を掛け、爾故陳の手腕とテソヨーのトリックと国の威信を尽くし「煙道」は完成した。
その日から間もなくして爾故陳に非業の死が訪れようとは、誰一人予想だにしなかった。

                              Kuri, Kipple : 2005.07.20


散文(批評随筆小説等) 不連続小説 『煙道 3』 Copyright クリ 2005-07-20 03:38:33
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