水底の、走る船の
霜天

ところで
夕暮れはもう間近に迫り
みんな精一杯に迷っているので
その足元を照らす明かりも
その足で踏みしめているものも
記憶は近さも見せないくらいに
空で燻るものだから
こうやって今日も続いていくでしょう
それはきっと
明日も


いつか沈んでしまう夢を見て
水底をそろりそろりと
小さな足で走る人達を
追いかけるものは何もない
いつかは
見渡す限りが世界だったこと
遠くで沈んだ船の
ごおん、という音が響いては
ぼんやりと浮かび上がる時計の
針を読むことが出来ないでいる
何度も

いつかは、走り続けた船の
水底を進む速度
滑るようにして落ちていくその日も
ここは変わらずに迷っている
精一杯に
精一杯に


ソーダ水の弾ける音がして
誰かが、ひとりが振り返る
皆が寝静まったその頃に
そんな季節になったんだなと
思い出す

燻る空の中から、ようやくのひとつ


自由詩 水底の、走る船の Copyright 霜天 2005-07-19 16:04:34
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