一品料理(既婚編)
山内緋呂子

彼はにんじんだが
私がおろしてしまった

まな板のすみに にんじんのおろし
主人の好きな きんぴらをつくらなければいけないので
いつもより速く ごぼうを切る
トマト 枝豆も切る

その間 ずっと おろしが私を見ていて
主人も見ていて

ますます急いできんぴらをつくる。
冷蔵庫を開けると 人参がない。

キムコの裏、紅茶キノコの裏にもなく
ガラガラヘビの絵本の中、とかにあるわけもなく

主人が
「これ捨てていいか?」とか言って近づいてくるので
「三角コーナーに捨てて」と言ってしまう

三角コーナーの裏

おろした人参の皮があるはずだ

ステンレスにひっついたオレンジのひし形は
彼が私に言いたかった最後の言葉で、
先程コーヒー飲みながら
「もう三角コーナーは動かせない」
と思っていたのに主人が

「これ一杯だから捨ててくる」
とか言って動かした

皮などなく

にんじんももうないので

炒めごぼうのおろし人参ドレッシングがけ
などつくって出す







自由詩 一品料理(既婚編) Copyright 山内緋呂子 2003-12-13 21:42:13
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