凜
大覚アキラ
ねえ 凜
前にも話したかもしれないけれど
きみが生まれる前に
きみのために考えていた名前が
ほんとうは ふたつあったんだよ
どちらかといえば
ぼくはもうひとつの方が
ほんの少しばかり気に入っていたんだけれど
生まれたてのきみが
ふしぎなほど微笑んでいるのを見ていたら
きみには
凜という名前がぴったりだと思ったんだ
九年前
きみが生まれたころには
それなりに個性的だったその名前も
同じ名前の女の子が登場するドラマのおかげで
今ではそれほど
珍しい名前ではなくなってしまったね
だけど 凜
きみのために
ぼくが考えたその名前は
きみだけのものだ
そう たとえ世界中の女の子がみんな
きみと同じ 凜という名前になったとしても
きみの名前だけは特別だ
その名前は
きみの一生を ずっとずっと明るく照らし続け
どんな暗闇の中でも 道に迷うことなく
まっすぐにきみを導いてくれることだろう
きみにその名前を与えたことで
父親としての ぼくの仕事は
もう半分ぐらい終わったような気がするけれど
これから先の
きみと一緒に過ごす時間をかけて
ゆっくりと のこりの半分の仕事を
こなしていこうと思うんだ
だから 凜
きみもゆっくりと
ゆっくりと
大人になっていってくれればいい
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愛みたいなもの。