TAXIに乗った男は…
プテラノドン

濃厚なアフロヘアで口髭ともみあげを尖らせていた男は
行く先も告げずに、これから映画でも見るかのように
ビスケットを食べている。運転手は問いかけに応えない男の表情を、
男の口からこぼれ落ちるビスケットの食べカスを気にしながら、
いかしたネオンの見える場所へと車を走らせた。
無言の車内では、ラジオよりうるさいエンジン音と
クーラーの安っぽい風が聞こえる―。それはいつもの話で
今日に限っては、ビスケットを噛む音とバターの匂いが立ち込めていた深夜、
男が新たな袋を破くと中からネズミが飛び出してきて、
床に落ちていたビスケットのカスをきれいさっぱり食べ尽くした。
運転手は抗議するべく後部座席のドアを開けた。
 そして、男は初めてワォと口を開いた。
コリアンハイウェイ―、暗闇のスクリーンでは
ライトアップされた教会の十字架が無数に広がり街を彩っていた。


自由詩 TAXIに乗った男は… Copyright プテラノドン 2005-07-12 04:26:07
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