赤い点滅
有邑空玖


あたしの町のあたしの川の向こうにはあたしだけの工場が在る。
其処は終日稼働式で、何時でも好きな時に好きなだけ眺める事が出来る。
くすんだ灰色の煙突は大した高さでも無いのに
チ  カ  チ  カ
と赤い光を点滅させて居るが、実はあれはあたしへの合図であたしは其れをちゃんと理解して居る。
チ  カ  チ  カ
でもあたしは其れに応える術を持たない。仕方が無いのでじっと眺める。
工場では少年達が昼夜問わず働いており、大人の影は何処にも無い。少年は錆の浮き出た前時代的な機械を日に数回点検し、其れ以外は何をするでも無い。
少年達は皆何処かしら繃帯を巻いて居る。眼帯をする者も居れば、腕を三角巾で吊って居る者も居るが、あたしは彼らが泣いて居る姿を見た事が無い。
凡そ無表情で黙々と手を動かして居るか、川底の様な昏い眸で自らの繃帯を巻き直して居るか、何方かだ。
少年達は工場で生まれ工場で死んでいく。外の世界は知らない。彼らに其れは必要の無い知識なのだ。大切なのは、眠って居る間、空を翔ぶ夢を見るかどうかで、他の夢なら憶えても居ない。
間断無く煙突から吐き出される薄い灰色の煙は鈍色の空に溶け、此の町に雨を降らす。
工場は終日稼働式で、だから町は雨が多い。
チ  カ  チ  カ
赤い点滅だけが鮮やかに染みる。
チ  カ  チ  カ
あたしも死んでしまったら、彼処に生まれ変わるのだろう。外の世界を全部忘れて。
全部忘れて。



自由詩 赤い点滅 Copyright 有邑空玖 2005-07-09 22:32:29
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