偏頭痛
プテラノドン

工場地帯の駐車場に捨てられていた吸殻から
男女のひそやかな絆が曝される。互いにひかれ合う、
男と女の意欲と表象、一度出ると伸び広がりつづける地平線に
偽りの太陽や月が、沈まずに居座っている。何個も。いずれ打ち捨てられるとはいえ、
それは何日目?早くしないと男女二人の影は伸び続け、誰かの影と重なり
引き剥がす事が出来なくなる。(一心同体なんて望んじゃいないのに)
住所氏名を除いて、表層としての存在はそこや、あそこで屈している。
抗おうと会話を繰り返す事で、新たに空間を満たそうとしても、
警告どおり言葉は、誰にも(君自身でさえ)見つからない場所へさっさと身を隠す。
無意識であれ、その居場所を与えたのは僕等で、
みんなそれを許している。ほっぽらかしなのだから
監禁しているわけでないにせよ、勝手に出ていくことがないのだから、
やはり何処かに潜んではいるのだが―

たとえば公園の遊具の錆び、それを掴むと
学校の体育授業の香りがする
体操着のぶら下がった
机と、苗字の違う新しい上履き
道具箱
夏休みの計画表に
嘘を混ぜるのも大事。そうすれば
おそらく夏はもっと明るくなる。
のある限りは振り返る以外、口にしてまで
懐かしむことはないように、などとおのれを見失わない限り、
言葉は暗闇で孤立して生きて、歩いている、がゆえに、
他の言葉と衝突し、奇妙な火花を散らしもする。そして突然、
頭に浮かぶ渾然とした言葉。瞬く間に消える微笑―最短であれ
私達は知らぬ間に動かされたりする。時々、一人ないし何人かで、
暗い部屋を探し出してこっそりと天井の蓋を開けて、
邂逅する様を盗み見することに成功する。あれ、
そんなこと言っていたっけとか言ったりして、さらに多くのものも。

ぶっ壊れた映写機。ありもしない成り行きで、明らかにそこで
キスする場面になったりするけど、男はまだまだ先にするつもり。
彼女の方は何度か尻尾を振っているが、喜びとも不満ともとれるし、
すきあれば逃げ出しそう。―多分そうだろう。だから、
夢や約束を交わすのが大事。その時はたいした効果をもたらさなかったにしろ、
時計仕掛けの爆弾とはそういうもの。その罠でさえ長い間ほおっておくと、
他の時計に紛れてどれがどれだか分らなくなり、起きたときに知る程度で、
誰かにあらかじめ忠告する事など出来ない。ひょっとしたら
今から何秒後かに爆発するかもしれないし、そのせいで、
感傷をそれらしく語ろうとしている詩人の風景が
瓦礫に変わるかもしれない。僕は瓦礫の風景の親になる?
幸い「それらしい」悲しみはどこでも積み重ねられるから、罪重ねても、
瓦礫の親になるつもりはない。今のところは、ね。

それより、裏庭から聞こえる寺の鐘と夕立の音は
利根川の橋の上でも聞こえているのだろうか?
歩いて五分後には分る事。一時的であれ、それは僕だけの世界
誰にもあーげない。そうすることは、誰も彼も、ずっと前から
世界中で―、だからといって信用できるわけでもないが、
心ひかれるなら、愛しているなら、ぜんぶ
嘘っぱちじゃないというなら抱きしめてやれ
すると聞けるかもしれない―、あの古典的でぱっとしない演奏を
それだけにつつましくも消え去ることのない何か
かつて持っていた粗末な安心感は、
神秘よりもっと斬新的なよろこびになる。


自由詩 偏頭痛 Copyright プテラノドン 2005-07-07 01:38:12
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