道の途中
岡部淳太郎

誰もがみな
道の途中だった
そして誰もがみな
人に気づかれることなく歩いていた
人に見られていると
そう思うのはあさはかな傲慢であると
時の風が教えてくれた
深い
森の奥から道へ
われわれは思い出すこともなく歩いている
ただ手の届く
そっと撫でられるだけの過去を
重荷に負って
人に聞かれることのない
息を吐く
灰色のねじれ
骨の形をした疲労
人に知られることのない旅だった

いままでも
これからも

人に知られることのない
それは悲しむべきことであるか
人に知られることのない
そのことの快楽
涸れる喉
涸れる空
歌はもはや
われわれの口から奔り出ることはなかった
日はもはや
われわれの背を照らすことはなかった
そのためにわれわれの影は
他人のように背後からわれわれ自身を脅やかす
箸を取って食み
靴を履いて歩く
ただそれだけのことが
われわれにあり得ない永遠を見せる
奇妙にも
せいいっぱいはりつめる筋肉
奇怪な
棒のような日々
人に思い出されることのない
人に思われることのない
途中の旅だった

曲り角にさしかかり
土踏まずは道の声を聞く
昔年の
石の形をした小さな声
誰もがみな
旅の途中だった
そして誰もがみな
人に知られることなく静かに
消えていった



未完連作「道祖神」


自由詩 道の途中 Copyright 岡部淳太郎 2005-07-06 21:31:05
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